理事長挨拶
理事長就任のご挨拶
一般社団法人 日本腎代替療法医療専門職推進協会理事長
土 谷 健
(東京女子医科大学 血液浄化療法科 特任教授)
この度、中元秀友前理事長の急逝を受け、日本腎代替療法医療専門職推進協会の理事長を拝命することになりました。中元前理事長は当協会の立案から創設に至るまで、一貫して献身的に一同を牽引されていた中、道半ばのこれからというときに、まさに痛恨の極みでございます。今ここに中元前理事長の思いを引き継ぎ、また志を新たに本協会の発展に尽力していく所存でございます。
当協会の創設、成立の経緯については、中元前理事長が就任のご挨拶で述べられておりましたが、令和2年12月に賛同をいただいた日本腎臓学会、日本臨床腎移植学会、日本腹膜透析医学会、日本腎不全看護学会、日本臨床工学技士会、日本腎臓病薬物療法学会及び日本透析医学会の各理事会で、一般社団法人として設立することが承認され、令和3年1月14日付けで日本腎代替療法医療専門職推進協会として東京法務局の認証を得て法人登記がなされました。
当協会は、医師、看護師、臨床工学技士、薬剤師、管理栄養士、移植コーディネーター、公認心理師など多岐にわたる資格を持つ、この領域の医療専門職が腎代替医療の発展のために協力し、患者さんに多くの情報と適正な医療の提供を目指すことを特色としています。
本邦の腎疾患(現在は、慢性腎臓病(chronic kidney disease: CKD)として総称)患者さんは1,500万人以上、国民の8人に1人以上の罹患が推定され、高齢化が進む中、国民病として位置付けられるようになっています。CKDでは、進展、重症化する患者さんがいるため、ある時点では何らかの腎機能の代替をなす療法が生命維持に不可欠となります。この腎機能を代替する療法には、血液透析、腹膜透析、腎移植が含まれますが、最終的に末期腎不全(end stage kidney disease: ESKD)に至ると腎代替療法(renal replacement therapy: RRT)を選択することになります。本邦では、過去数十年間、血液透析を中心として治療が行われ、透析クリニックの普及など利便性に富み、長期予後も良好で、世界的にも誇る診療状況です。しかしながら、医学的、社会医学的観点からは、血液の体外循環のため高齢の患者さんには負担になることや年齢の変化、通院による外来診療である点、送迎の増加、近年の感染症の世界的な広まり、頻発する災害などの支障が大きく、医療費の増加もあり、治療法の多様性が求められています。
このため、血液透析に加えて、腹膜透析、腎移植などの腎代替療法がより積極的に検討される医療体制が望まれるに至っています。腹膜透析、腎移植にも在宅診療におけるリモート医療の促進や異種移植など、今後の大きな可能性を示唆する話題に事欠きません。さらに診療報酬でも平成30年度改訂で、腎代替療法の多様性の推進に大きく舵が切られ、導入期加算の新設、腹膜透析、移植施設支援など経済的な支援体制も厚みを増しています。さらに、急速に進む高齢化は結果として多死社会となり、腎不全医療にも大きな変化をもたらしています。高齢患者さんでRRTを選択しない状況、つまり透析を見合わせるということも顕在化しており、生命維持という積極的医療を選択しない点は通常の医療プロセスと異なっています。また、年齢にかかわらず透析を見合わせる事例も生じており、保存的腎臓療法(conservative kidney management: CKM)とした新たな選択肢であるとともに患者さんやご家族、医療者も対応すべき状況をきたしています。こうした患者さんの増加、年齢、社会生活、要望などの多様化は、それに対する医療者側の対応にもおのずと変化をきたすことになりました。それは、医療側からの一方向的な情報の伝達ではなく、患者さんを中心とした意思決定、治療選択には共同意思決定(shared decision making:SDM)や人生会議(advanced care planning:ACP)の実施が必要とされ、こうした診療形態の変化には腎疾患領域の専門的な知識をもつ多職種スタッフの協力が不可欠です。
このような経緯で、CKD診療に携わる医療専門職の共通の新資格としてすべての職種に共通の「腎代替療法専門指導士」が創設されました。当協会では、腎代替療法に関する医療の方向性として、CKDの進展・重症化予防や多職種によるチーム医療で適切な腎代替療法選択を推進すること、透析患者さんおよび腎移植患者さんのADL、QOLの向上を目指すことを目的としています。とくに在宅医療である腹膜透析および腎移植医療の推進を重要課題とし、さまざまな活動を展開しています。また透析を見合わせる患者さん、ご家族に対して緩和を含めた適切な対応を行いうる体制を作り上げます。
当協会は創立後、令和6年9月30日現在、1,969名の腎代替療法専門指導士を認定しています。今後、患者さんやご家族、医療スタッフが一体となって、国民病ともされるCKDに対して総合的な医療体制を構築してまいりたい所存でございます。どうか皆様のご協力をよろしくお願いいたします。
令和6年9月吉日